「・・・説教なら聞かねェぞ。」
「いい年した大人に説教なんてしませんよ。」
隣、失礼します・・・と、一声悟浄に声をかけると隣に腰を下ろした。
そのまま暫く何も言わず、吹き抜ける風を肌で感じ、視線を遠くに見える緑に向けていた。
やがて沈黙に耐えられなくなった悟浄が舌打ちをしながら煙草を取り出した。
「言いたい事あンなら言えよ。」
「別に僕は何もありませんよ?」
「ンじゃ、何でここにいんだよ!」
「貴方が何か言いたそうだったので、ここにいるだけですよ。」
視線を合わせず、目は前を見たまま悟浄の言葉に重ねるように声を発した。
それに驚いたのか、パサリと音を立てて火のついていない煙草が草の上に落ちた。
「・・・余計なお世話でしたか?」
「・・・いンや。」
苦笑しながら落ちた煙草を拾い上げ、前髪をかきあげながらため息をつく悟浄は・・・どうみても後悔でいっぱい、と表情をしていた。
「はあぁ〜っ・・・何であんな事言っちまったんだろう。」
「あんな事?」
「・・・あんな風に言うつもり、なかったのになぁ。」
「またその場の勢いで言ったんですか。」
「勢いじゃ・・・いや、そうかもしんねェ。」
再び後悔のため息をつくと、悟浄はポツリポツリと今回の喧嘩の経緯を話してくれた。
以前から人に対して疑いや警戒心のないは、全て親切心で他人へ手を差し伸べる。
けれど中には邪な思いを抱いて彼女へ手を差し伸べる人間も居て、それを注意しようと思っていた矢先に宿屋で妙な男にが絡まれてしまったらしい。
最初は軽く冗談のように注意を促したが、一向に耳を貸さないについ腹を立て・・・声を荒立ててしまった、と言うわけですか。
「・・・なるほど。」
「本当はちゃんと言い聞かせるつもりだったんだよ・・・」
煙草も吸わず、ただただへ暴言を吐いてしまった自分を戒めるような顔をした悟浄は、僕と同居していた時には決して見せる事がなかった兄の顔。
「それだけ分かってるなら十分ですよ。」
「・・・どーだかなぁ。」
「彼女の行動については確かに一部気になる点がありましたからね。ちょうどいい機会だったかも知れませんよ。」
「・・・」
「僕も三蔵も気になっていた事ですから、いずれ誰かが言わなきゃいけなかったんです。」
彼女の優しさはとても尊いものだと、僕も三蔵も分かっている。
けれど、他人を全て信じて手を差し伸べる彼女の優しさは・・・時に諸刃の剣でもある。
「その誰かが、お兄さんである悟浄だっただけですよ。」
そう言うと僕は立ち上がり服についた草を軽く手で払い、ゆっくりその場を離れた。